青春賛歌~鴨川のカップルをカウントせよ~ (ニシカゲ)
こんにちは、ニシカゲです。皆さん恋をしているだろうか?
私はしていない。
大学生になれば彼女の一人や二人できると考えていたのが一年前のことである。
しかし、一向に彼女のできる(それどころか異性との出会いの)兆候は見られない。
次第に私の頭には一つの仮説が浮かんできた。
「もしかして、男女で付き合う行為なんて最初から存在しなかったのでは?」
現代に生きる私たちはテレビや雑誌といったメディアの発する情報を鵜呑みにする傾向にある。
つまり、「カップル」とはメディアの生み出した虚構の存在だったのである(と私は考えた)。
大学入学から一か月ほどたち、相変わらず出会いのない私が「恋人とは都市伝説である」という仮説が本当であると確信し始めたとき事件は起こった。
場所は京都三条の橋の下、鴨川の河原。
サークルの飲み会の待ち合わせ場所としてここを指定された。
そこで目撃したのは互いに肩を寄せ合い、河原に等間隔で座る男女のカップルの群れであった。
頭の中で今までのふざけた仮説が音を立てて崩れ落ちて言った。
なぜこんなところにカップルがいるのか?なぜ肩を寄せ合っているのか?なぜ自分には彼女がいないのか?
様々な疑問がわいてくる。
それから一年、私はこう考えた。
「鴨川カップルの生態を調べよう。骨の髄まで」と。
こうして、鴨川にカップルが何組いるかを調べてみることにしたのである。
範囲は出町柳から京都七条橋まで。
鴨川の川岸にいるカップルをカウントする。
カップルの定義としては、年齢を問わずに男女のカップルをカウントする。
夫婦である場合もカウントするが、明らかに親子の場合はカウントしない。
当日、日曜日ということもあり、鴨川周辺は人でにぎわっている。
もちろんカップルも多いようだ。
ここで今回撮影に協力してくれる仲間を呼ぶことにする。
ナルヒラ~
!?
ドドドドドドドド
ナルヒラ「よんだ?」
ナルヒラにはカメラ撮影を中心に企画のサポートをしてもらう。
カップルカウントを始める前にせっかく近くに来たので、有名な下鴨神社にも寄ることにする。
この神社は平安時代から存在する由緒正しき神社であり、世界遺産にも登録されている。
そして縁結びの神をまつっていることでも有名なのである。
縁結びの神々に今回の企画が成功するように祈っておいた。
ちなみに神社の入り口から賽銭箱まででも十組以上のカップルとすれ違った。
参拝も終えたので、ジャージに着替え調査を開始する。
今回は鴨川の右側を走りながらカウントしていく、いったい何組いるのだろうか?
一条~二条
日曜日の午後、天候にも恵まれ絶好のカップルカウント日和となった。
そんな多くの人でにぎわう鴨川に・・・・・・
ジャージ姿で走る不審な人物が一人・・・・・・
私だ
この企画を考えた当初、「やってみたはいいけど、あんまりカップルがいなかったらどうしよう?」
とか考えたものだが、心配とは裏腹にカップルは鴨川に反吐が出るくらい大量に生息していた。
大学生と思われる若いカップルをはじめ、子連れでピクニック気分で来ている若い夫婦。
銀婚式どころか金婚式さえ迎えているような超熟年夫婦から、明らかに小学生なのに仲良く並んでいる男子と女子まで幅広く存在していた。
カチカチ
カチカチカチカチ
カチカチカチカチカチカチカチカチ
周りの目線がほんのわずかだが気になる。
子供「ねーねー、あれなにー?パパー」
母「見ちゃいけません」
父「あれは社会不適合者や」
このような平和空間でも・・・・・・
カチカチカチカチカチカチカチカチ♪
激しくカウンターを鳴らしていく。
まるでフラメンコで踊り手が足で地面を踏み鳴らすがごとく。
三条~四条
この辺りは要注意である。
ナルヒラの情報によるとこの辺りが最もカップルの多い場所だという。
そして、自分が初めてカップルの大軍を発見したのもこのあたりなのである。
カチカチカチカチ
カチカチカチカチカチカチカチカチ
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
ニシカゲ「ヒャッハー!一組残らずカウントしてやるぜー!」
カップル「しまった!カップルカウンターが来たぞー!」
途中練習をしている合唱団に出くわす、同時に十数名の男子集団の塊とも出くわす。
男子集団は「あいつ、なにしとんや」と笑っている。
少し、腹が立つ。
恥ずかしくなる。
いっそ、あの合唱団に交じってしまいたくなる。
だが、私は考える。
この人たちも私と一緒だ・・・・・・と。
この付近にいるカップルの数はパッと見でも二十組ちかく。
この二十組より下なのだ
おれもおまえも
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
カチカチカチカチカチカチ
カチカチ……
容赦はしない。
一組も漏らさない。
笑われても泣かない。
想像通り、三条と四条は今回最大の鬼門(精神的に)であると同時にカップルカウントの穴場でもあった。
だが、カウントが増えるたびに、胸の中がどんどん冷たくなっていくのを感じた。
企画的にはおいしいはずなのに。
肩を寄せ合うカップル。
女の頭をなでる男。
女に頬を当てて接吻しようとする男。
距離にして六百メートルもないはずなのに、何キロにも何十キロにも感じる。
何もかもが今の自分にとっては別世界の出来事のようだ。
五条~七条
五条~七条は比較的人が少なく、それに伴ってカップルの数も落ち着いてきた。
歯が見えているので笑っているように見えるかもしれないが実際は違う。
悔しさをかみしめているのである。
京都にはこんなに人がいるのに自分は一人っきりだ。
疲労回復のために食べた角砂糖。
甘いが、侘しい。
カチカチカチカチ
カチカチカチカチカチカチカチ
ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ
カチカチ
カチカチカチカチ
実は借り物なのでぶかぶかなジャージ。
足も裾をまくって走っている。
そして、ついに・・・・・・
ゴールである七条に到着した。
一条から七条までの長い孤独なマラソンは終了した。
ゴール、そして結果発表
そして、今回の結果は・・・・・・
!!!!
281組!!
281人ではなく281組である。
つまり、鴨川には562人の幸せ者がいるということである。
一条から七条まで約5キロ、つまり鴨川には両端に約35メートルごとに一組のカップルがいるということである。
さらにこれを三条四条に限定すると、さらに密度が高くなる。
三条から四条は約600メートル、この間だけで120組ほどのカップルがいた。
つまり、約10メートルごとに一組のカップルがいる計算になる。
想像してほしい、川の両端の10メートルごとにポンポンポンと男女のカップルが配置されている様子を。
どう思うかは人次第だが、少なくとも自分にとっては地獄絵図である。
まとめ・・・・・・一人はさびしい
今回の記事はできるだけ自虐的に、なおかつ陽気に進めていくつもりだった。
しかし、三条から四条のあたりになってから、急激に空気が重くなっているのは、ここまで読んでくださった読者の目には明らかだろう。
私は、大学に入ってから「友達も彼女もいらないと」考えるようになっていた。
友達と飲み会?
金がかかるし、二日酔いになるしで無駄の極みだ。
友達が受けるから同じ授業を受ける?
なんのために大学に行っているんだ、あとその友達お前のノート見たいだけだから。
友達みんなでご飯?
お前、孤独のグルメの楽しさを知らないな。
私は今まで群れている人間を嫌っていたし、群れたい(ただのボッチともいえる)とも思わなかった。
群れるのは自分で自分のことを決められない弱い人間だと決めつけていた。
しかし、最近気が付いた。
人間は思っている以上に孤独には弱い、と。
この間、知り合いにノートを後で見せてくれと頼まれた。
「しょうがね~な~」などと思いながらも、頼られていることがうれしくてたまらない自分がいることに気付いた。
友達と飲み会するのが無駄?
人生なんてそもそも無駄のかたまりだ。
友達と同じ授業を受けるな?
ノートぐらい気持ちよく見せてやれよ。
友達みんなでご飯を食べるな?
お前は焼肉屋にひとりでいくのかよ。
今回この鴨川を走っていて気が付いたが、鴨川にいたカップルには60歳以上の老夫婦もかなりいた。
自分よりも何倍も人生経験を積んでいるはずのお年寄りさえ寄り添って生きているのだ。
鴨川にいるのは何もカップルだけではない。
どこかの大学のサークルが大勢集まっている。
女友達同士でしゃべっている。
もちろん一人で読書をしているような人もいるが、複数人で集まって過ごしている人のほうが多い。
みんなさびしいからだ。
今回の企画は自身の人生を変えるきっかけになるかもしれない。
最期にとりあえず、叫んでおく。
カップル共の馬鹿野郎!!
陰の者