ポン酢ジュレに便乗していろんなものをジュレにする (kubomi)
食品だけでなく様々なものを、いま流行りのゲル状に変えてみました。
「ポン酢ジュレ」という商品をご存知だろうか。現在となっては複数の食品会社から販売されるメジャーな調味料となってしまったが、販売した当初はポン酢とジュレという奇妙な組み合わせに「また日本企業が変なものを作ったなあ」と思っていた。それがいまや、である。
この際、さまざまな調味料などをジュレ化して先駆けて特許を取れば大金持ちになれるのではないか。そう考え、いろんなものをジュレ化してみた。
- ウスターソース
- バルサミコ酢
- ワンカップ大関そばつゆ
- モンダミン
- イソジン
モンダミンとイソジンは調味料ではないけど、思いつきでやってみようと思った。ほら、消毒用アルコールも「手ピカジェル」とかいって売られているではないか。そういう感じです。
ジュレにするにはゼラチンを使うのだが、少量のジュレを作るのにどれくらい入れればいいか分からなかったのでスプーンで適当に入れた。これが結果的には悪い結果を招いてしまう。私は料理をするときなんかには醤油や砂糖を目分量で入れてしまうのだが、一度クッキーを作ったとき、軽量せずに作ったら甘い砂みたいなものになってしまったことがある。良い子のみんなは、お菓子とゼリーはきちんと軽量して作ろう。……いや、ゼリーは本来お菓子か。
今は便利なもので、お湯で溶かすだけですぐに使えるゼラチンが売っている。湯を加え、それぞれにスプーンで流し込み、冷蔵庫で1時間放置する。
結果
1.安定のウスター
まずはウスターソース。スーパーで買ってきた豚カツにかけて食べる。
まあ、当たり前のように美味い。ジュレにしたくらいでは、とろみのある豚カツソースと大差ない。何も面白くないくらい普通のおいしい豚カツになってしまった。
2.そもそも初めてのバルサミコ酢
シレッとバルサミコ酢を買ったはいいものの、今までの人生でバルサミコ酢なんて食べたことがない。アレでしょ、イタリア料理で、失禁した犬が歩いたみたいに皿の縁にかかってるヤツ。そんな認識の男に成すすべなくゼラチンで固められてしまう哀れなバルサミコ酢には、同じくスーパーで買ったローストビーフの上にかかってもらう。正しい食べ方なのかどうかは分からない。
あ、なるほど。フルーティーでさっぱりしていて、肉料理にぴったり。ジュレにすることで何か変わった訳ではないけど、心なしか酢特有のツーンとくる感じが抑えられている気がする。あー、美味しいなこれ。でも普段使う場面がないから、バルサミコ酢ジュレを商品化したところで特に売れることはないだろうな。一般人にとっては業務用のデカいデミグラスソースくらい要らないものである。
3.白濁するワンカップ大関
冷蔵庫から取り出したワンカップ大関はイカの刺身のように白く濁っていた。多分ゼラチンのタンパク質がアルコールと反応して変性したのだろう。あと、ゼラチンが多すぎてジュレというかゼリーのような硬さである。果実酒のジュレなどはすでに商品化されているが、大衆酒のワンカップ大関はどうだろうか。
味は特に変わらないが、ゼリーになったせいか、飲み込むときに食道にアルコールの沁みるような感じが全くない。加えてアルコールの揮発も少ないので、日本酒や焼酎が駄目という人でも食べられそう(飲めそう?)だ。
漁港なんかに行くと漁師がワンカップ大関やパックの鬼ころしを片手に船の中で昼間から飲んでいたりする。そのうちウィダーインゼリーみたいな容器に入ったワンカップ大関を飲む光景も見られるようになるのかもしれない。
すべて固形の晩酌
4.〆のゼリーそば
酒を飲んだあとのシメは茶漬けがポピュラーだが、個人的には蕎麦が好きである。あと、ジュレ茶漬けをやる勇気がなかったからでもある。
そばつゆもワンカップ大関と同様ゼラチンの量が多すぎてゼリーになってしまった。蕎麦と絡めるために箸でクラッシュし、蕎麦と絡める。
シズル感皆無、クトゥルフ神話的な宇宙的恐怖を想起させるビジュアルだが早速口に運ぶ。
咀嚼するとそばつゆのゼリーと麺が粉砕されてゆく。だが普通のざる蕎麦の触感と決定的に違うのは、つゆの粘度と蕎麦の硬さがほとんど一緒になってしまうということである。普通なら、すすった蕎麦のコシを楽しみ、潔く呑むのが粋というものだが、つゆがゼリーだと噛もうが噛むまいが全体的にドロドロしていて最悪なのだ。
いや、これは最悪なのか?よく考えればあんかけそばやとろろ蕎麦もドロドロしているし、そういう料理だと思えば決して不味くはないのではないだろうか。
そうだな、宇宙食なら許せる。日本どころか地球を離れた遠い場所で、古き日を思い出しながら妥協して食べるのなら許せる味だ。あるいは来日したての外国人に食べさせたら美味しいって言うだろうな。あいつらオートミールとか食ってるもんな。アレに比べたらおいしいよ。
5.恐怖のモンダミン
食事のあとのエチケット、モンダミン。
缶のジュースや栄養ドリンクなんかをコップに移すととんでもない色をしているものだが、モンダミンをスプーンですくってみると、見たことのない感じがする。自由と着色料の国アメリカを連想させる蛍光色。あるいはウランガラスのような輝きはまさしく「核」である。私の中の反戦のセンサーが ビービーと鳴り出した(本当に口に入れたくない)。
口の中でほぐすとペパーミントの刺激が口の中にまとわり付いてくる。酒と同様、粘膜に対する直接的な刺激は少ないものの、口をすすいでも喉の奥や下の上に粘性のモンダミンが残っているような気がしてならない。「お口くちゅくちゅ」どころではない、お口グチャグチャである。フリスクのゼリーなんかを作っても同じようになるだろう。「さっぱり」とジュレは共存できない運命なのだ。
6.イソジン
「ただいまの後」からだいぶ経った、いまさら遅いイソジン。
冷蔵庫から取り出すと、薄める前は麦茶ほどあったはずの茶色がなくなっていた。なぜだ?イソジンの色はヨウ素イオンの色なのだが、何がどうなって消えたのか分からない。しかし匂いは完全にイソジンである。さっそくうがいしよう。
(プヒュー)
ゼリーのように硬く仕上げてしまったため、うがいをしようとすると隙間から吐息が漏れる。 ここまでは曲りなりに食べたり口をすすいだりできたから良かったものの、イソジンにいたっては「うがい」という本分を全うできていない。
「この後スタッフが美味しくいただきました」という但し書きがあるが、これは日本人のもったいない精神に基づくものであり、モノを粗末にするとたちまちクレーム・炎上・村八分の対象になってしまう。
なのでここで一応断っておくと、イソジンのゼリーに関してはスタッフではどうにもすることができませんでした。よく分からないヨウ素臭い塊として捨てることしかできませんでした。申し訳ありません。
あとがき
ジュレやゼリーのように、ゲル状にしたり粘度を持たせる加工は、古くからあるもののまだまだ開拓の余地があると思う。ジュレポン酢の前だと、子供が苦い飲み薬を飲むためのゼリーなんかが発売されていた。ナパーム弾ができたのもここ100年のことで、つまりそれまではゲル状のものを(少なくとも戦場で)燃やすという発想がなかったのである。
今回の実験ではバルサミコ酢や日本酒で「強いにおいが和らぐ」という結果が得られた。そう考えるとチューブにんにくやレモン汁なんかもジュレにすると食べやすいかもしれない。あと詳しくは書かないけど、「味や匂いをごまかして飲み込ませる」という特性は性的な利用ができそうである。詳しくは書かないけど。
万年補欠インターネッター