Wikipedia“珍”ノート集 ~いかにしてWikipediaは作られていくか~

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Wikipediaの”珍”ノート集 ~いかにしてWikipediaは作られていくか~ (kubomi)


可笑しくも愛おしい、Wikipediaができるまでの過程をご紹介します。


 

Wikipediaを知らないという人はもはやいないでしょう。小学生ですら利用している、ネット上の百科事典。ここまで一般的になったWikipediaですが、それではそれを編集したことがある人間はどれくらいいるのでしょう。ましてや記事を作成した人間は?我々はどのようにして、それぞれの記事が出来上がっていくかを寡聞にして知らないのです。

 

Wikipediaにはノートページというものがあり、その項目の内容について議論をすることが出来るようになっています。その中には喧々諤々たる論争の末に現在の内容へと落ち着いたものもあります。

例えば靖国神社のノートページを見てみましょう。「靖国神社とは何であるか」を記述するにあたり、何を書くべきで何を省くべきか、何が事実で、何が正しい解釈なのか。独善的に編集を繰り返すのではなく、議論を経てよりよいものを作ろうとした形跡がそこにあります。

 

今回はその中から、ユーモラスで奇妙な議論がなされた「ノート」を紹介したいと思います。私を含めて「ウィキペディアン」ではない人々にとって、どのようにして、そしてどのような人々がWikipediaを編集しているのかを知るひとつのきっかけになれば幸いです。

 

 

1.”ビキニ”で”アーマー”ってどういうこと? 「ノート:ビキニアーマー」

 

 

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ノート:ビキニアーマー – Wikipedia (2008年3月17日 (月) 14:52時点の版)

 

最初に紹介するのは「ビキニアーマー」の内容に関するノート。上のリンクは過去の版となっており、現在は議論が収束してもう少し簡潔なものになっています。ちなみにビキニアーマーとは、分かりやすい例で言えばドラゴンクエストシリーズの女戦士が着用しているようなものを想像してもらえれば。鎧をまといつつ肌の大部分が露出するという、現実には明らかに非合理的でありながら男の目に映えるこのファンタジー。それが2万文字を超える論争を巻き起こすとは、誰が予想できたでしょうか。

 

その論点をいくつか抜粋。

  • ビキニでありかつアーマーであるということは、戦闘の描写が不可欠ではないのか?
  • 1940年代のパルプフィクション雑誌の表紙などについても触れる必要があるのではないか?
  • ○○(作品名)が例として挙げられているが、アレはビキニアーマーではないだろう
  • ビキニアーマーについて論じた文献がないなら、この記事はすべて独自研究的な内容になってしまうのでは?
  • 露出度の高い防具を着用する必然性について論じた文献は?

 

などなど、ここには書ききれないほど、魅力的で知的に刺激される議論が繰り広げられています。Wikipediaのスタンスとして、「独自研究を載せない」「検証可能な出典に基づく」というものがあり、さらにWikipediaは項目の対象を定義する機関ではないという立場を守ろうとすると、ルーツや資料の曖昧なビキニアーマーを記述することはかくも難しくなってしまうのでしょう。

 

最終的にはこのようなルールが制定されたよう。

 

“本項目の記述文は「独自研究かどうか」「作品リストは必要か」をめぐって議論が重ねられました。その結果、現在(2008年3月17日)のような本文記述が妥当と合意された上で、以下のようなローカルルールが設定されています。

  • ビキニアーマーが出てくる作品のリストは作らない。
  • 本文中の作例はこれ以上増やさない。
  • 本文中に示す作例で適切なものがあれば、ノートで議論した上で差し替える。

本項目の編集者には、これらの合意を尊重してくださるようお願いします。–おーた 2008年3月17日 (月) 14:52 (UTC)”

 

これにより、かつてはこのように網羅的であったページが、現在ではこのように変わっています。「ビキニアーマーとは何か」という問いですら、ここまでに深い。

 

 

2.見りゃあ分かるだろ! 「ノート:腰パン」

 

ノート:腰パン – Wikipedia

 

“現在の本項は出典の明記がないため独自研究的であり、さらに日本中心であるため内容の精度に問題があります。本項をより良い記事にするために執筆協力者を広く求めています。–オクラ煎餅 2010年3月25日 (木) 14:46 (UTC)

ご自身で見た事がないんですか?–220.100.67.11 2010年12月19日 (日) 04:59 (UTC)
220.100.67.11さんこんにちは。見たことがあるとかの問題ではないんです。この記事の現状では、例えばブラジルや南アフリカやロシアにおける腰パンの状況が何一つわかりません。さらに出典が少なくWikipedia:中立的な観点が担保されていないということです。–オクラ煎餅 2010年12月19日 (日) 05:09 (UTC)
「国際化|日本」を貼ればいいだけの話でしょう。そういう主張は「ネットde真実」(ウェブページ化されたものしか信じない人)と揶揄されてますよ。–220.100.62.1102011年2月9日 (水) 02:35 (UTC)
誰に「揶揄されて」いるのですか?そうではなく他でもないあなたが揶揄しているではありませんか?そしてそのような態度はウィキペディアにおいては歓迎されません。まずはWikipedia:五本の柱を理解していただき、よりよい記事作成にご協力下さい。–オクラ煎餅 2011年2月9日 (水) 03:52 (UTC)”

 

腰パンをめぐって揉めていますね。しかもどちらが言っている事も一理ある。出典や普遍性を要求する紋切り型(と彼には見えたであろう)の批判に「ご自身で見た事がないんですか?」と返したくなる心理も分からなくも無いですが、しかしここはWikipediaであってニコニコ大百科ではない。編集方針に従って粛々と内容を練ってゆくのもまたあるべき姿です。そこにユーザー「220.100.67.11」が”一言多い”反論を繰り返すことでもはや腰パンとは無関係な喧嘩に発展してゆく様は、ネットによって可視化された日本のなぐりあいの精神といえるでしょう。

 

とは言っても、この議論ので海外における腰パンに関する記述が増え、現在は写真も充実しています。記事の内容にきちんと貢献しているのです。

このようにノートでの議論から、ページの編集の履歴を見るのも楽しみ方のひとつと言えるでしょう。

 

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3.いきなり何を言い出すんだ 「ノート:ガッツ石松」

 

ノート:ガッツ石松 – Wikipedia

 

“現状ではガッツ石松氏を人間以外の動物だと誤解される可能性が高く、wikipediaの精神に基づき、より正確な情報にすべく生物学上の「ヒト」であることを明確化した方が良いと思われます。

wikipediaで嘘は書くべきでは無いと思います”

 

Wikipediaを編集しているのは博覧強記の賢人ばかりではありません。このようなしょーもないことを「wikipediaの精神に基づき」とさも大層なことのように書く人間だっている。あと「嘘は書くべきでは無い」というか、失礼だろ!

 

またボケも突っ込みも「読み人知らず」の状態であり、さながら田舎の駅の伝言板にある落書きの応酬のようなほほえましさがあります。

 

 

4.おねがいします 「ノート:性行為」

 

ノート:性行為 – Wikipedia

性行為の項目について、「わかりづらいので」という見出しで追加された依頼。しかしそこには、短いながらも何かを示唆するような、趣深いやりとりがありました。

 

 ”「絵」では、よくわかりません。写真を、おねがいします。–219.31.30.185 2008年3月7日 (金) 23:30 (UTC)

誰に何を期待されているのか分かりませんが、ご自分で資料として掲示されたらいかがでしょうか。ただし、ネット上の拾い物画像の掲出は出来ません。Wikipedia:画像利用の方針に準じて下さい。–124.255.26.50 2008年5月27日 (火) 16:45 (UTC)”

 

219.31.30.185さんの投稿記録をみると、このページにしか書き込んでいないことが分かりました。

彼(彼女?)は、果たして本当にこの項目の発展を願って性行為の写真をおねがいしたのか。はたまた、ただ単に性行為の画像が見たくて見たくて、すがる思いでWikipediaにやってきたのか。

 

“「絵」では、よくわかりません。写真を、おねがいします。”

“「絵」では、よくわかりません。写真を、おねがいします。”

“「絵」では、よくわかりません。写真を、おねがいします。”

 

「耳をすませば」のキャッチコピー「好きなひとが、できました」を思わせる、ピュアな気持ちが伝わってきます。中学生が英和辞書で「sex」を調べるときの、そんなドキドキを思わせる文章に出会えるのも、ノートならでは。中立的で匿名的で、集合知を象徴するような項目ページとは裏腹に、ノートページには血の通った人間の顔が浮かんできます。これぞ、ノートを見る醍醐味ですね。

 

 

 

 


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