混沌狼藉無秩序闇鍋会 (ナルヒラ)
かわいいキャラクターが繰り広げる混沌狼藉無秩序闇鍋会のはじまりはじまり~~
よし、どうやらみんな揃ったようだな。
今日は、前々から告知していた通り、我が大学の美食研究会に代々伝わる恒例行事「第128回 混沌狼藉無秩序闇鍋会」だ。
各々が思い思いの食材を持ち寄り、暗闇の中で調理されたそれらを順番に食べてゆくこの行事。
あまりにもスリルを求めすぎるあまり、突飛な食材によって毎回毎回犠牲者を出しているこの闇鍋会ではあるが、
ショウタロウ、リョウコ、マサヤ、チカ、覚悟はできているか?
当たり前でございますよ、キヨハル先輩。
こちとら金欠でここ数日は近所の山道脇のやでなんとか飢えをしのいできたんですから、今回の闇鍋会をどれだけ楽しみにしてきたか分かりません。
とはいえ、今日はなけなしの小銭で「これは」と思えるような品を仕入れて来やしたんでね。御先輩方の期待に応えられればな、と。
まったくだわ。
さすがにあたしはショウタロウみたいに生活に困窮してたわけではないけれど、今週あたりからは、ほら、少しづつ夜風がひんやりしてきたじゃない?
今日明日あたりに昨年の冬以来ほこりをはらってない鍋でもおろしますか、と思ってたところだったの。
そしたらキヨハルから今回の闇鍋会の開催が伝えられたんだからまさに渡りに船ってわけ。
もちろん、参加する以上はそれなりの食材を選んできたつもりだから期待しててほしいわ。
みんなが何を持って来てるのか、楽しみにしてるわ。
おいおいおいおい、勘弁してくれやリョウコ。
夜風がどうとか女々しい動機はどうでもいいだろう。
俺達美食研究会はスリルを求める、ただそれだけでいいんだよ!
まあまあマサヤ先輩、そうカリカリされずとも良いではないですか。
今日は待ちに待った闇鍋会。
みなさんがどんな食材をお持ちになられたのか、とっても楽しみにしております。
それではキヨハル先輩、乾杯の音頭をよろしくお願いいたします。
了解した。
それでは、今ここに「第128回 混沌狼藉無秩序闇鍋会」の開催を宣言する!
おーッ!
さあ、それじゃ早速はじめましょう。
まずは主催者なんだし毒見もかねてあんたから食べなさいよ、キヨハル。
おうとも!
それではまず私から先陣を切らせていただこう。
すおりゃッ!
シャキシャキシャキシャキ……
聞きたまえ、この葉物野菜特有のみずみずしい咀嚼音を。
決して主張をし過ぎないこの淡白な味が、なんとぽん酢に合うことか。
間違いない、これは「白菜」だ。
あれまあ。先輩に人気具材の白菜を取られちまいましたか。
しかし、まだまだ具材はたくさんございますからね。腐らずにいきましょうや。
次はオイラの番でございますな。
ちょえいッ!
もぐもぐもぐもぐ……
この、絹でこしたようになめらかな食感。
大豆の持つ優しい味わいがぽん酢との相性が抜群でございます。
この食材、「豆腐」に間違いございませんでしょう。
良いのを引いたじゃない、ショウタロウ。
次はアタシが食べるわ。
てやッ!
ちゅるちゅるちゅるちゅる……
柔らかくてゴムのように弾力のある食感。
ダイエット中の女の子には嬉しい低カロリーな味がポン酢と合うわね。
これはそう、「しらたき」よ。
もう食ってもいいかい?
そろそろ俺にも食わせてくれや、とにかくもう我慢できねえよ。
ずああぁッ!
淡泊な味が多い鍋の食材の中にあって、ガツンとくるこの肉の脂のパンチ力。
当然、ぽん酢にも合う。
ハッ、どうやら大当たりを引いちまったようだぜ。
これは「豚肉」に違いねえ。
まあ、豚肉なんてうらやましいですわ。
そろそろわたくしもいただいてよろしいでしょうか?
おいしい食材にヒットしますように。
えいッ!
シャキシャキシャキシャキ……
長時間鍋で煮込んでいるためしっかりと和風の出汁を吸いながらも、この心地の良い食感は健在で、もちろんぽん酢にも合います。
これは「もやし」でしょうね。
よし、一巡したようだな。
どうやらみんな、一品目はオーソドックスな食材を引き当てていると見えた。
しかし、まだまだ闇鍋は始まったばかり。具材もたっぷり残っていることだ、どんどん食べ進めていこうではないか。
ぜあぁッ!
バリバリバリバリ……
表皮、骨、内臓、そして六本の足が織りなす独特の食感。
昆虫性のタンパク質と玉虫色の味が、なんとぽん酢に合うことか。
一匹だとボリューム感が足りないが三匹四匹と口に運べばそれも解決。
間違いない、これは「カナブン」だ。
ほう、カナブンでございますか。
一週目でおおかたの王道食材は出尽くしたものだと思っておりましたが、まだまだ良い食材は残っているようでございますね。
俄然面白くなってまいりました。
ちょえいッ!
グニグニグニグニ……
この食感は薄くのばしたゲル化合物のものでございましょう。噛めば噛むほど食材からオプティフリーの風味が染み出してくるということは
きっと、これは「ソフトコンタクトレンズ」に違いありませんな。
ふーん。ソフトコンタクトレンズね、うらやましいわ。
そういえばみんな、今回は変わった食材をなかなか引き当てないわね。
ちょっと安全な食材を選び過ぎなんじゃないの?
まあ、その分あたしはおいしい鍋が食べられるのだからいいのだけど。
めえいッ!
グチャボキッグチャボキッ……
骨と肉、そして爪。太さ、関節の数、長さから察するにこれは中指なのだろうけど、それより気になるのはこの骨の髄までしみ込んだスパイスの風味よ。
なるほど、これは「インドネズミの中指」で間違いなさそうね。
さっきからどうも鍋がカレーっぽいにおいがするなとは思ってたんだが、その食材のしわざかよ。
それよりお前ら、ここまで来てまだオーソドックスな食材がくるたあ、ちょっと守りに入り過ぎだろう。本当にやばい食材は入ってるんだろうなあ?
ま、どんどん食っていけば分かることか。
じゅあぁッ!
コリコリコリコリ……
この食感、表面にまとわりつくねばねばした粘液、50センチはあろうかという形状、そして、ほんのり感じる蟻酸の後味。
今日はツいてるぜ! まさか「アリクイの舌」を引き当てちまうなんてな!
もう! マサヤ先輩ばかり良い食材を引き当ててずるいですよ。
それにしても、今回はこれでもかというほど王道の食材ばかりですね。
そろそろ一風変わった食材でも引き当てたいなあ、なんて。
ちゃあッ!
バキバキバキバキ……
この食感から言って鉄製の刃物類であることは確かでしょうね。噛むたびに口の中の肉が切れて出血しますがそれもまたご愛嬌。
特徴的な厚みから察するにこれは「出刃包丁」でしょう。
しかし、今年は比較的オーソドックスな食材が続いているな。
ぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅ……
……ん? 何だこの食感は。
おそらく、今まで食べたことのない食材だ。
おっ、こいつは面白くなってきやがった。
味はどんなだい?
しょっぱいとまではいかないがほんの少し塩気を感じる。
私も20年以上生きて、第128代美食研究会主将の名に恥じぬよう様々なものを食べてきたつもりだが、こればかりはどうにも分からない。
しょっぱいってことは海の生き物なのかしら。
情報が少な過ぎるわ。もっと他に特徴はないの?
さっきも言った通り、大部分はゴムのようにぐにゃぐにゃした食感なのだが、時おりコリコリした部分に当たることがある。
決してまずくはないし、ぽん酢に合わないこともないが一体、何なんだこの食材は?
だんだん気味が悪くなってきたぞ……。
ゴムのような食感、コリコリした部位、海の生き物ですか……。
あの、実は、心当たりがあるのですが。
いや、でも、まさかそんなはずは……。
おうそいつは話が早えや。
一体、その食材の正体は何だってんだ?
もごもごしてないで教えてくれよ!
そうよチカ! 早く!
その、えーっと……。
……。
チカ、私は多少のことでは驚かない。
大丈夫だ。
君の予想を聞かせてくれ。
あまりにも非現実的なので、まだわたしも半信半疑なのですが……。
キヨハル先輩がさっき食べた食材はもしかして……
「タコ」ではないでしょうか?
なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!!?!!!?!?!!?!!?!?!
げぼげぼげぼげぼげぼげげぼげぼげぼげぼげぼげぼげぼげぼげぼげげぼげぼげぼげぼげぼげぼげぼげぼげぼげげぼげぼげぼげぼげぼー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
タコですって!? ありえないわ!
デビルフィッシュよ!! デビルフィッシュ!!!
あんなうねうねして気持ちの悪い悪魔の生き物を食べるなんて、想像するだけで失神しそうよ!
嘘だろ、おい……。
じゃあ何か? 俺達は今まで、タコが入ってた鍋をつついてたってのかよ!?
ペッ、ペッ、ふざけんじゃねえぞ!!
誰だ!? 誰がタコなんか入れやがった!?
と、とにかく……。
一旦、電気を点けましょう!
興ざめは興ざめですが、そうこう言っている場合ではありませんから!
……。
うぎゃあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ぜえ、ぜえ……。
誰だ、鍋にタコなんかを入れたやつは……!?
リョウコ!! お前か!?
あたしがタコなんか入れるわけないでしょう! キヨハル!!
はやくそのタコをどこか別のところにやってよ!!
気持ち悪いったらありゃしないわ!!
マサヤ! これを入れたのはあんたじゃあないでしょうねえ!?
馬鹿言ってんじゃねえぞ!! 誰が好きこのんでタコなんか入れるかよ!!
冗談でもやっていいことと悪いことってもんがあるだろうが!
チカ!! お前のしわざだろう!!! あぁん!?
そんな……違います! わたしではありません!!
言いがかりはよしてください!
わたしはただ、本で読んだことがあったから心当たりがあっただけなんです!
ショウタロウさん!! さっきからずっとだんまりですけど、もしかしてあなたなのではないですか!?
……。
ショウタロウ! 答えろ!
タコを入れたのはお前なのか!?
そうでございます……。
オイラが入れやした。
てめえ、何考えてやがる!
そうです! 見損ないましたよ!
ショウタロウさん!
あんたねえ、こんなものを鍋に入れて、ただで済むと思ってるんじゃないわよねえ!?
どうしてですか!?
どうしてそんなに御先輩方はタコを忌み嫌うのでございやすか!?
食べたこともないくせに!!
もちろん、おいらも最初は気持ち悪いと思っておりましたよ。
でも、一度知り合いに無理矢理食わされた時に思ったのでございやす。
あれ? 意外とおいしいじゃないか、と。
やはり、偏見で物事を語るのは良くないな、と
なんでも、日本という国では古来よりタコは貴重な食料とされてきたといいます。
お金が無いなりに、おいらも闇鍋会になにかしらの爪痕を残したかった……。
まさかこんなにも糾弾されるなんて……。
……。
……。
……。
……。
キヨハル先輩も先ほどこう言ったではありませんか!
「決してまずくはない」と!
おいら達は誇り高き、第128代美食研究会のメンバーでございやしょう!?
常に至高の一品を求めて未知の食材に挑戦する、おいらが憧れたあの高潔なスピリットはもう美食研究会には存在しないのでございやすか!?
……それでも、やっていいことと悪いことってものはあるだろうが。
あたしも、今回の行いは決して許してはならない事だと思うわ。
信じられません……。 ショウタロウさん。
……ショウタロウ。
混沌狼藉無秩序闇鍋会の規則第8条
「食材提供者以外の全ての参加者が反対する食材の投入が判明した場合」についての罰則はおぼえているな?
そ、そんな……。
や、やめてくれ……。
やめてくれよぉ……。
うぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
それでは不測の事態により会が中断してしまったが、今ここに再開を宣言する。
みんな、覚悟はいいか?
もちろん。
まだまだ食材はたくさん残っているはずだもの、これからが勝負よ!
おうともさ!
俺の食材を引き当てたお前たちの驚く顔が早く見たくてしょうがねえよ。
じゃんじゃん食おうぜ!
わたくしもうずうずしてきました!
そう言えば、次は誰が食べる順番なのですか?
そうだな、趣向を変えるためにも逆回りにでもするかな。
チカ、君が食べる番だ。
分かりました。 いただきます!
きいッ!
ガリガリガリガリ……
うーん、この食材は骨張っててあまりおいしくないですね。
煮込みが足りないからでしょうか?
ピエロと墓荒らしにご挨拶