断固固くお断りするだけの文章 (モモヒロ)
記事執筆をお願いした新ライターからお手紙が届きました。
こんにちは、ナカガワです。
今回の記事は新ライターである”モモヒロ”が執筆いたしました。
モモヒロとは僕の学生時代の同級生でして、絵と文章をかくことが好きな人でした。
そこで僕は彼女に、慢性的な人手不足に陥っているモッケイエンタテイメントに加入してもらおうとお願いしました。
初めは「あまり自信がない」と断られたのですが、それでも、と僕が強くお願いをしたところ
「分かりました、書いてみます」との返事を頂けました。そしてしばらくして今日、「記事を送らせていただきましたのでご査収下さい」とのメールが届き、確認したところ、以下に続く文章が綴られていました。
拝啓
時下ますますご清栄の段、お慶び申し上げます。
さて、このたびは記事執筆のご用命をいただきまして有り難うございます。
まことに光栄なことでございまして、本来ならばすぐにでもお受けしたいところでございますが、諸般の事情もあり、脳内協議の結果、不本意ながらお断りのご返事を申し上げる次第でございます。
願ってもないありがたいお話を、まことに申し訳ございません。
どうか事情ご賢察のうえ、ご宥恕賜わりますようお願い申し上げます。
敬具
モモヒロ
ナカガワ様
私、モモヒロは、今夏よりモッケイエンタテイメントに入らぬかとありがたいお誘いを頂いておりましたが、
無才ゆえ幾度もお断りし続けておりました。
此度のお手紙は、その、お断りするという意志の、最後通牒のようなものです。
以下は私の遣る方なきこころを吐露した、要するに言い訳であります。
金に比せられるべき財産である時間をドブに捨てて顧みぬことで己の精神的余裕を感じたいという奇特な方はどうぞ。
私、ゆかいなことは大変好きでありますが、自分がゆかいな人間かと問われればさにあらず。
我が根城と学校の二点を結ぶ直線を直径とする円の中で完結する生活で、なにゆかいなことが起きましょう。
大学入学以来、知己もおらずイントネーションのうねりにのまれちっぽけな己など消滅してしまうのではないかとおそれ、
なんとか友人を得るべし、いやもはや事ここに至りて贅沢は言わぬ、知人を得なば上々とねらいをさだめ、
サークル活動などに励むも、かくかくしかじかありて逃げ帰ってしまった。
ゆかいどころかひとをふゆかいにさせてばかりの人間なのです。
自分探しの積極性など備わらず、
自分など外に探さずともここにある、部屋の布団の中で安心安全を謳歌するこれこそが私である、と開き直り、
岩戸の向こうからお手紙ついても読まずにむしゃむしゃ食べるのみ。
たのしげにおどりさわいで私が扉を開けるのを期待なさっても無駄であります。
たしかにゆかいなことが起これば大変気になる。
モッケイエンタテイメントのみなさんが楽しげなのも大変魅かれる。
ですが、「あれまァわたくしがいないのにどうしてゆかいなことが起きているのかしら」
とは微塵も思いません。
「ハハァ…きゃつら何ぞおもしろいことをはじめおったわいヒヒヒ」
とつぶやきながら、もれ聞こえる声の断片を捕らえられれば十分、
あとは無駄に蓄えた妄想力にまかせ、つぎはぎすればよいだけの話であります。
プププ、クスクス、ウフフ、ニヤニヤ
本文記事にお腹をよじらせつつ、アラマーあのときの彼らがこんなに大きくなって、
楽しそうで、何より、なにより… ♪チャンチャン!お~しまい!
これでよいのです。
(これ以上はできないのです。)(何かを作り出したりなんてとてもできません。)
なに、私の祖母上も裁縫の上手であり、母上もまた読書暗号文の解読に長け、切ったり張ったりの名人、
となれば私三代目、立派に才を受け継いで、独断の鋏で断ち恣意の糸で綴り、
三千世界を気ままに蒐集、果てに曼荼羅をなすをライフワークといたしまして、
かように老後の趣味まで定まった、何一つ冒険とも斬新ともかすらぬタイクツ人間に、
ハテ、何故お声のかかりしや…と疑問ばかりがムクムクと綿菓子のごとくふくらんでおります。
いったい私になにをそうもご期待なさるのか。
おそらくきっとナカガワ氏、
綺羅星のごとき人々に記事執筆の白羽の矢を立てんと持てる矢射尽くす最後、
そのかいなもへろへろになったところでなおも射た矢が逸れに逸れ、
ひねもすぼんやり若草山を眺め暮す私にさっくり刺さったのであろうと思われます。
この矢、存外に深くささり、抜ける気配はみじんも無い。
下手に自分でひっこ抜こうとすれば脳髄がうじゅうじゅと音を立て一緒についてくるようであります。
このようにさながら落ち武者の体でうろついていては、乙女のポリシーもへったくれもなく、
四方に女性のうごめく学び舎で、防護鎧にとかためた女子力はもろくも瓦解しつつあるのです。
割れた女子力の仮面の隙間から塩釜焼のように鯛でも出づればよいが、出てくるのはおぞましい般若の面つき。
私が幾度も執筆をお断りして、書けません書けませんと心苦しく申し上げているのに、
ナカガワ氏は、もう一度書いてご覧なさい、お願いします、などと仰るのです。恨めしく思わいでか。
こういうことを言うと世のかわゆい女子にリンチされミンチにされても仕方がありませんが、
いちおう私も女子のはしくれ、ほつれの部分くらいには入るいきものです。
よいですか、私の細工のそろわぬ顔ではなく、やわらかそうな、かわゆい女子を思い浮かべてください。
そうです、膝のほんのりあかいような、爪先のまるくととのったような。
そんなかわゆい女の子が
「無理です駄目ですどうかこの矢を引っ張りぬいて、
も一度狙いを改めて、活き良い獲物をつらまえに、定めて射ればよい話。
無能無才の私めが、如何してお役にたちましょう」
と、七五調っぽい感じで泣き額づいて説いてくるのに、
その無理をとおし頭にささった矢を放置して「いや、もう一度がんばってみませう」
なぞと言う外道下衆があってよいものか。
断じて否!かわゆい生き物をいじめるやつは私がゆるさぬ!
と、まあ、かわゆい生き物をいじめたらかわゆい生き物の取り巻きが成敗してくれようが、
私はかわゆい生き物ではないため、かわゆい乙女なれば助っ人助太刀、護ってももらえそうなところも、
自分のことは自分で守らねばなりません。
記事執筆が出来ないことは自分で主張せねばなりません。
友人を通して「あのさぁ、あいつやっぱり書けないって電話で泣いてたよ?もう諦めなって~」と言ってもらうことは
(友人に相談を持ちかける勇気がないという自分の事情はさておきですね、)できません。
外道ナカガワ氏が手を変え品を変え柔軟に「とりあえず一度でいいから書いてみてくれませんか?」「モッケイエンタテイメントに入ってもらいたいんです!」
などと連ねる言葉に応えられないことに罪悪感など微塵も感じてはなりません。
そう、私はこれまでに記事執筆のお誘いを三度お断りし、三度懐柔されているのだ。おそろしい手腕である。
懐柔されるたびに「やっぱり書けません」と言うことになり気まずさに消え入りそうになるのに、
いや最近ではもはや敬語も礼儀も何処へやら、「書かないって言ってるだろおおおおお」と絶叫しつつも、
おかしい、何故かまたこうして説き伏せられて長々文章を書いているのだ。おかしい。
想像してもみよ、ナカガワ氏のような人の心を持たない畜生がもしブラックな社会の人間であったならば、
その非道なるトークスキルを駆使してメキメキバキバキ頭角をあらわし、
わるい大人の階段をあっという間に駆け上がり、牛の耳を切ったりするに違いない!
おお…おそろしい…そういう病気のゾンビにしか持ち合わせられない才覚のあるひとなのだ、ぶるぶる。
私がいくら下手に出て矢の刺さった頭を地面にすりつけ謝罪しようとも、
ナカガワ氏ちっともひるまずためらわず、私と同じ格好でめげずにもう一度チャレンジしてくる。
あっ…こんな駄目人間に誠意いっぱいで接してくださるのにお断りするのは申し訳ないな…という気分にさせられる。
も…もうそんな風には思わないぞ。
あれは戦略で、メールで顔が見えないだけだからな、
きっと画面の前では「計画通り」って悪どい顔してるんだ…そうだ…。
…
……
…手ぬるいな
これくらいか。
此度まで、ナカガワ氏の根の腐った弁舌にのせられたものの、もうこれきりでモッケイエンタテイメントの勧誘とはおさらば、
この文章が掲載された暁には、
ナカガワ氏の多少強引とは言えるものの将来有望な勧誘の才と、私の文章のみそっかすさが人々に認められ、
ナカガワ氏には玉たる人材の獲得を望むモッケイエンタテイメントメンバーの声が集まり、
私にはそこらの小石たる無才にふさわしき平々凡々な日常が眼前に広がるほどのスペクタクル感も無く程々に展開されていくことでしょう。
そうして私はにこにこわくわく一読者としてモッケイエンタテイメントを観る側に戻れるのだ!YATTANE!
それではおさらばだ!
フハハ!
残念ながら断られてしまいましたが、また近々誘ってみようと思いますので、モモヒロの次回作をお待ちください。