石と人間の間に絆は生まれるのか (ニシカゲ)
享楽のシーズン。私も外に遊びに行くことにした。石と。
人と人との関係、友情や愛や絆というのははるか昔から人類の大きなテーマとなっており、それを題材にした文学や音楽は数えきれない。人間は絶対に一人では生きていけないわけで、友情や愛情を深く追求することは自然な流れと言える。
アメリカでのある例
今から四十年ほど前、アメリカで「ペット・ロック」と呼ばれる玩具がブームとなっていたことがあった。この「ペット・ロック」はその名の通り何の変哲もない 石をペットとして飼うという一種のジョークグッズである。しかし、本物のペットのように石のための通気孔のあいたキャリーケース、石を鎮座させるための布 や藁、石の飼育方法や訓練方法を記載したマニュアルと血統書まで用意されており購入者はマニュアルをもとに、石に対してイヌなどと同様に「来い」「お座り」「伏せ」といった基礎訓練を施し、決まった時間に入浴させ、ベッドに入れ休息を与える。このようなナンセンスな商品だったにもかかわらず、五百万個を 売り上げる大ヒットとなった。
石と友達になろう
ペット・ロックはあくまでもジョークグッズに過ぎないだろうが、石のような人間との絆や愛情とは一番離れたところにあるようなものにさえ、人間は絆を感じる可能性があることを示してくれたように感じる。そこで、実際に石と一緒に過ごして、石との間に絆が生まれるのかどうかを調べてみることにした。また、ペットロックのように売られている石でなく道端の石を使うことにした。石から金銭的価値を取り払い、石と私との関係をまっさらな状態でスタートするためだ。
1、相方を探しに行く
今回使う石を外に出かけ探しに行く。
近所の神社の周辺の道で手ごろな石を探す。
すると……
これだ!
どこからどう見ても普通の石。
この石にしよう。
今からこの石は私の相棒だ。
さっそく拾う。
2、一緒に公園に行こう
とりあえず、近くの公園に移動する。
しかし、相手が相手なだけに何をどうしたらいいか全く見当がつかない。
とりあえず、簡単な挨拶をしてみる。
「こんにちは」
「初めまして、ニシカゲといいます」
「……」
困った。
とりあえず、一緒に遊んでいるうちに打ち解けるだろうと考えた私は、童心に帰って公園で遊ぶことにした。
滑り台
「……」
「……」
「……」
「……」
シーソー
ガチャーン
「……」
「……」
二人の間に会話はほとんどなく、どちらが石なのかわからないような状態だったが、似た者同士ということで仲良くしていこうと思う。
しばらく一緒に遊んでいるうちにだいぶ打ち解けてきたような気がする。
さらに絆を深めていこう。
3、石を家に招待しよう
親交を深めるべく、石をうちに招いてもてなすことにした。
一緒に朝ご飯を食べる
「いただきます」
「……」
二人で談笑するふりをしながら、朝食をいただく。
朝食は目玉焼きとキャベツの千切り、あと食パン。石の分の目玉焼きはウズラの卵で作った。
朝食を食べながら「一人暮らしだと誰かと一緒に朝食を食べる機会って少ないな」としみじみ思う。
風呂に入れてやる
だいぶ風呂にも入ってなかった(入ったことすらないのかもしれない)ようなので風呂に入れてあげる。
きれいになって石もうれしそうに見える。
4、石と遊びに行こう
この石はこれまでずっと道端に転がっていたから、この世界のことを何も知らない。
私はこの石に道端以外の世界も見せてやりたいと思った。
石と琵琶湖に行こう
琵琶湖は大津駅から十分ほど歩いくと大津港に着く。
ここからは、一日に数本琵琶湖を遊覧する船が出る。
港の周りは公園となっていてこの日も多くの人でにぎわっていた。
また、今の時期は夕方になると湖上は光り輝くイルミネーションで彩られ、幻想な雰囲気を楽しむことができるのでもし訪れる際にはカップルでお越しいただくことをお勧めする。
「琵琶湖って広いなあ」
「……」
今まで狭い世界の片隅で転がっていたこの石は、広大な琵琶湖を眺めながら何を思うのだろうか。
大津港付近の公園にて石と
琵琶湖の付近で、一見一人のように見えるが、よく見ると石と一緒に行動している人間を見かけたらそれは紛れもなく私だ。
石とゲームセンターに行こう
石のためにぬいぐるみを取ってあげようとするも失敗。
「取れなかったよ……」
「……」
石と商店街を歩こう
滋賀は大津の商店街を石とニシカゲが行く。
もし、石を持った危ない感じの男を大津で見かけたら、それも紛れもなく私だ。
楽しかった。
そして石は・・・・・・
木端微塵になった・・・・・・
今回は「人間はただ石に対して本当に絆が生まれるか」という実験だったが、
結果として絆が生まれたといえる。ただの何の価値もない石なのに私は割りたくないと本気で思ったからだ。
上の写真を見てもしショックを受けたのならそれはあなたも無意識のうちに石に対して好意を持っていたことになる。
あぁ、悲しい・・・
あれ・・・
石が・・・・・・?
これは・・・錯覚なのか・・・?
いや、こいつが錯覚だろうが幻覚だろうが関係ない・・・
だって私はこいつを愛してしまっていたの
だから……
石よ永遠に・・・
陰の者