自分の小説を全力でリメイクする (中川)
幼いころに自分が書いた小説をリメイクしました。夏まっさかりですが、クリスマスの話です。
今僕は実家に帰省しているのですが、ふと、こんなものを見つけました。
そうです、自分で書いた小説です。
そういえば小学校五年生のころに国語の宿題か何かで書かされた覚えがあります。
昔の自分はどんな文章を書いてたんだろう、と気になって読んでみましたが・・・
ひどい・・・・・・
そりゃあ文豪でも名文家でもない凡人が小学生時代に書いたような小説モドキがまともなわけはありません。
幼ない自分のあまりにも情けない痴態を目の当たりにし、僕は一瞬この小説まがいを焼き払ってしまおうかと考えました、
しかし、
過去から目を背けては成長などできない、 過去を乗り越えてこそ人は成長するのだ。
というありふれた教訓を思い出した僕は決めました。
このエセ小説を、
立派な小説に昇華してみようではないか、
と。
というわけで自分の小説を全力でセルフリメイクしてみることにしました。
ひとまず、その例の駄文をお読みください。
画像だと読みにくいと思うので下に起こしてある文章で読むことをお勧めします。
いずれにせよ文章は読みにくいままですが。
ちなみに主人公であると思われるキャラクター、“正次”は「まさつぐ」ではなく「しょうじ」と読みます。
なぜかこの名前の読み方だけは鮮明に記憶に残っています。
サンタクロースの交代
作者 中川翼
十二月二十五日のクリスマスの朝、今日は一年で一番サンタクロースのいそがしい日です。
朝からずっとプレゼントの準備でとっても大いそがしです。毎年やっていたサンタクロースはつかれてふらふらでした。
しかしサンタクロースは、
「まっている子どもたちのためにいかないと。」
しかしとても元気がなくいまにもたおれそうです。
そのころ正次とかずきは、正次の家でこたつにあたっていました。二人はクリスマスとお正月は楽しみです。
「今日はプレゼントもらえるかなぁ。」
とかずきがいいました。
「もらえるといいわね。」
と正次のお母さんがいいました。
「何をたのんだの。」
と正次がききました。
「車のラジコンだよ、売り切れだったから。」
とこたえました。
その夜かずきは正次の家で二人で起きていました。
「うーんまだこないのかなぁ。」
とかずきがいいました。
「えんとつがないからじゃないの。」
と正次がいいました。
「ぜったいくるって。」
とかずきがいいかえました。そのときげんかんからドサッという音がしました。二人はおそるおそる行って見ました。そしてドアを開けました。すると、赤い服をきた白いひげのおじさんがたおれていました。二人はまさかと思いながら聞きました。
「もしかして、サンタさん!。」
するとしゃべりました。
「ああそうだ、すこしつかれてな。」
すると立ち上がろうとしました。しかし、
「起き上っちゃだめだよ。」
と正次がいいました。
「家の中でゆっくりしてって、お母さんも寝てるし。」
とまたいいました。
「しかしだれがプレゼントを・・・。」
とサンタがいいました、すると。
「ぼくたちがいくよ。やり方を教えてくれれば・・・。」
と正次がいいました。
「おいおい、おれもいくのか。」
とかずきがいいました。
「いやなら一人でいくから。」
と正次がいいました。
「わかった、わかった。おれもいくよ。」
とかずきがいいました。
「で、どうやってくばるんだよ。」
とかずきが聞きました。
「このそりをつかうんじゃ。」
とサンタはいって、うしろからそりをもってきました。
そのそりにはトナカイがに二ひきつながれていました。
「これにのると空を飛べるんじゃ。」
とサンタはいいました。
「そしてこれがプレゼントじゃ。」
とまたもってきました。
「よし、さあいこう。」
と正次がいいました。のるとトナカイたちが走りだしました。雪がふりはじめました。
「よーしいっきにやるぞー。」
とかずきがやるきをだしました。
本当にサンタになった気分に二人はなりました。そしてどんどん運んで夜明けまであと少しです。もうほとんどくばる物は終わってあとは正次の家あたりだけになりました。
「よし、サンタさんの様子を見に行こう。」
そして正次の家にもどりました。
サンタはすっかり元気で二人の帰りをまっていました。そして二人がもどると、
「ありがとう、あとはまかせてくれ。」
といいました。そのあとは二人はつかれてもうねてしまいました。そして十二月二十六日の朝二人は起きるとまくらもとに紙がありました。正次とかずきはよんでみました。
「なになに―二人のぶんのプレゼントはお金がなくてかえませんでした。すいません。」
とかいてありました。
「あーあ。あんだけ働いて何もなしかよ。」
とかずきはいいました。しかし正次はかなしくありません。サンタにあえたし、そりにものれたからです。正次には自分がサンタと交代できたのがプレゼントだったからです。
お目汚し、大変失礼いたしました。
これを基にして、まともな小説を作っていきたいと思います。
まずは僕がパッと読んで気になった部分を色で示してみました。
サンタクロースの交代
作者 中川翼
十二月二十五日のクリスマスの朝、今日は一年で一番サンタクロースのいそがしい日です。
朝からずっとプレゼントの準備でとっても大いそがしです。毎年やっていたサンタクロースはつかれてふらふらでした。
しかしサンタクロースは、
「まっている子どもたちのためにいかないと。」
しかしとても元気がなくいまにもたおれそうです。
そのころ正次とかずきは、正次の家でこたつにあたっていました。二人はクリスマスとお正月は楽しみです。
「今日はプレゼントもらえるかなぁ。」
とかずきがいいました。
「もらえるといいわね。」
と正次のお母さんがいいました。
「何をたのんだの。」
と正次がききました。
「車のラジコンだよ、売り切れだったから。」
とこたえました。
その夜かずきは正次の家で二人で起きていました。
「うーんまだこないのかなぁ。」
とかずきがいいました。
「えんとつがないからじゃないの。」
と正次がいいました。
「ぜったいくるって。」
とかずきがいいかえました。そのときげんかんからドサッという音がしました。二人はおそるおそる行って見ました。そしてドアを開けました。すると、赤い服をきた白いひげのおじさんがたおれていました。二人はまさかと思いながら聞きました。
「もしかして、サンタさん!。」
するとしゃべりました。
「ああそうだ、すこしつかれてな。」
すると立ち上がろうとしました。しかし、
「起き上っちゃだめだよ。」
と正次がいいました。
「家の中でゆっくりしてって、お母さんも寝てるし。」
とまたいいました。
「しかしだれがプレゼントを・・・。」
とサンタがいいました、すると。
「ぼくたちがいくよ。やり方を教えてくれれば・・・。」
と正次がいいました。
「おいおい、おれもいくのか。」
とかずきがいいました。
「いやなら一人でいくから。」
と正次がいいました。
「わかった、わかった。おれもいくよ。」
とかずきがいいました。
「で、どうやってくばるんだよ。」
とかずきが聞きました。
「このそりをつかうんじゃ。」
とサンタはいって、うしろからそりをもってきました。
そのそりにはトナカイがに二ひきつながれていました。
「これにのると空を飛べるんじゃ。」
とサンタはいいました。
「そしてこれがプレゼントじゃ。」
とまたもってきました。
「よし、さあいこう。」
と正次がいいました。のるとトナカイたちが走りだしました。雪がふりはじめました。
「よーしいっきにやるぞー。」
とかずきがやるきをだしました。
本当にサンタになった気分に二人はなりました。そしてどんどん運んで夜明けまであと少しです。もうほとんどくばる物は終わってあとは正次の家あたりだけになりました。
「よし、サンタさんの様子を見に行こう。」
そして正次の家にもどりました。
サンタはすっかり元気で二人の帰りをまっていました。そして二人がもどると、
「ありがとう、あとはまかせてくれ。」
といいました。そのあとは二人はつかれてもうねてしまいました。そして十二月二十六日の朝二人は起きるとまくらもとに紙がありました。正次とかずきはよんでみました。
「なになに―二人のぶんのプレゼントはお金がなくてかえませんでした。すいません。」
とかいてありました。
「あーあ。あんだけ働いて何もなしかよ。」
とかずきはいいました。しかし正次はかなしくありません。サンタにあえたし、そりにものれたからです。正次には自分がサンタと交代できたのがプレゼントだったからです。
改善点その1、話者説明を省く
まずこの文章を一通り読んで気になったところは
「と〇〇がいいました。」や「と〇〇が聞きました。」
といったような「誰がその台詞を発したか」を説明する文章が多すぎる、ということ。
ほぼすべての台詞の後にこの話者説明が付随しています。
赤くした部分以外の無駄な文は多々あります。
まずはうっとうしいそれらの文章を省略します。
改善点その2、不要な要素は除外する
「二人はお正月を楽しみとしている」「正次の母」「誕生日プレゼントにラジコンを頼んだ」
など、これらの要素は比較的序盤に盛り込まれており、読者に「もしかして何かの伏線なのかな?」
と思わせておきながらまったく話の内容に関係ないので、
これらのファクターは初めから物語には登場させないのがベターと言えるでしょう。
改善点その3、不毛なやりとりは行わない
どうでもいい推測、たいした意味もなくプレゼント配達への同行をごねるかずきの駄々や、一度で済まさないサンタクロースの説明などは、
ただただ物語の進行を遅延させるだけなので、ここもカットです。
改善点その4、おかしい部分を修正する
「二人はクリスマスは楽しみです。」、「もしかしてサンタさん!。」、「サンタになった気分にに二人はなりました。」など、いまいち納得のいかない文章たちは修正します。
ついでに、多用されているひらがなたちも漢字に直しておきましょう。
また、なによりサンタがプレゼントの配達をしているのが25日の夜、というのはおかしいですね。
一日遅いです。
ひとまずこれらの改善点を物語に反映させてみましょう。
サンタクロースの交代
作者 中川翼
十二月二十四日クリスマスの朝、今日は一年で一番サンタクロースの忙しい日、
朝からずっとプレゼントの準備でとっても大忙しです。毎年プレゼントを届けているサンタは疲れてふらふらでした。
「待っている子どもたちのために行かないと。」
しかしとても元気がなく今にも倒れそうです。
そのころ正次とかずきは、正次の家でこたつにあたっていました。二人にとってクリスマスは大きな楽しみです。
「今日はプレゼントもらえるかなぁ。」
「もらえるといいね、かずきは何を頼んだの。」
「何も。」
「そう。」
その夜、かずきは正次の家で二人で一緒に起きていました。
「うーんまだ来ないのかなぁ。」
ちょうどその時、玄関の方からドサッという音がしました。二人は恐る恐る玄関へ向かい、ドアを開けました。すると、赤い服を着た白いひげのおじさんがたおれていました。二人はまさかと思いながら聞きました。
「もしかして、サンタさん!?」
「ああそうだ、少し疲れてな。」
「起き上っちゃだめだよ、家の中でゆっくりしてって。」
「しかしだれがプレゼントを・・・。」
「僕たちが行くよ。やり方を教えてくれれば・・・。」
「どうやって配るんだよ。」
「このトナカイに繋がったそりをつかうんじゃ、 これに乗ると空を飛べるんじゃ、そしてこれがプレゼントじゃ。」
「よし、さあいこう。」
そりに乗るとトナカイたちが走りだしました。雪が降り始めました。
「よーし一気にやるぞー。」
二人は本当にサンタになったように感じました。そしてどんどんと運んで夜明けまであと少しです。もうほとんど配る物は終わり、あとは正次の家の周辺だけになりました。
「よし、サンタさんの様子を見に行こう。」
二人は正次の家にもどりました。
サンタはすっかり元気になっていて、二人の帰りを待っていました。
「ありがとう、あとはまかせてくれ。」
と言いました。
そのあとは二人は疲れて寝てしまいました。
そして十二月二十五日の朝、二人が起きると枕元に一枚の紙がありました。正次とかずきは読んでみました。
「なになに―・・・二人の分のプレゼントはお金がなくて買えませんでした。すいません。」
「あーあ。あんだけ働いて何もなしかよ。」
とかずきは嘆きましたが、正次は悲しくありません。サンタに会えたし、そりにも乗れたからです。正次にとって、自分がサンタと交代できたのがプレゼントだったからです。
グッとスッキリしました。
しかし、なぜだか大切なものが欠けてしまったような気もします・・・
違う、僕がしたかったのはこんなことじゃない・・・!
省いて省いて、非合理的な要素を排除する、そんなのは近代に毒されてしまっているだけなのではないか・・・!
これじゃただ過去を切り捨てているだけだ!
本当の意味で過去を乗り越えているとはいえない!
自分の過去と真剣に向き合い、こんどこそ本当の小説に仕上げていきます。
・・・・・・
書けました。
・・・リメイク版、「サンタクロースの交代」です。
表紙絵も新しくなりました。
それでは、ご覧ください。
サンタクロースの交代
冬の朝の東京に舞い降りた一匹のカラスが、そのクチバシに雪をくわえていた。
いったいどこから来たのだろうか。
十二月。東京ではまだ雪は降っていない。
だがしかし、街に吹き抜ける北風はやはり、僕の体を冷たくする。
家を出て、街中を通って歩く。
変哲もないが、街に流れるクリスマスソングのおかげで今日がクリスマスなのだということを改めて自覚させられる。
二十四日。正しくはクリスマス前日、なのだろうか。
サンタクロースは、死んだ。
もう15年以上も前のことだ。彼は脳卒中で死んでしまった。
暗い、暗い父の部屋に残されていたホーム・ビデオに、僕が生まれて初めて迎えたクリスマスの日のことが収められていたものがあった。
赤い服に身を包み、ひげを付けた父が僕の前に現れ、幼い僕はひどく泣いていた。怖かったのだろう。父のせいで、僕はサンタクロース恐怖症を患ってしまっていた。
それでも毎年毎年サンタクロースはやってくるから、その度に僕は大声で泣き喚くのだった。
僕は駅に着き、そのまま中央線下りの快速に乗り込んだ。早い時間帯のためか電車の中は空いていて、苦労せずに座ることができた。しばらくは外の景色を眺めていたが、昨夜あまりよく眠れなかったこともあり、だんだんと眠気が襲ってきた。
夢を見た。
子どもの僕が、薄暗い自分の部屋のベッドの上で膝を抱えて座りこんでいる。
少し震えているようだ。だが、寒いわけではないみたいだ。
部屋にある置き時計の秒針が少しずつ進んでいる。55秒、56秒…
小さな針が真上を指し、短針、長針もそれに合わせて動く。12時になった。
僕はそこで目を覚ました。
少しぼんやりした後に、慌てて駅名表示を見る。
ちょうど目的の駅に着くところだった。僕は電車から降りた。
駅を出て、ちょうどやって来たバスに乗った。
バスもまた電車同様に空いていて、乗客は僕を含めて4人しかいなかった。
僕はさきほど見た夢のことを思い出していた。
いつもこの時期になると、あの夢を見る。いまとなってははるか昔の記憶。
次第にバスの乗客も一人、また一人と減っていき、しまいに車内にいるのは僕と運転手の二人だけになった。
そしてしばらくして、僕の目的地にたどり着いた。
お金を払ってバスを降りようとしたとき、突然、運転手に話しかけられた。
「もしかして去年も、この日にこのバスに乗っていませんでしたか?」
その通りだ。去年もこの人が運転していたのだろうか。運転手の顔をよく見ると、なんだか見覚えがあるように思えてきた。
「えぇ、去年もこのバスでここまで来ました。よく覚えていらっしゃいますね」
「そりゃもう。わざわざクリスマスイブにこんなへんぴなところに来られる方は珍しいですからね。なにか用でもおありなんですか?」
「毎年、この日は墓参りに来てるんです。父の命日なので」
運転手が複雑な表情を浮かべる。
「クリスマスイブに亡くなられたんですか。なんとまぁ…」
運転手との会話を切り上げ、僕はバスを降り、歩き始めた。
15分ほど歩いて、父の墓がある墓地までやってきた。
僕の父は、僕がまだ小学生のころに、十二月二十四日に死んだ。
夕方ごろに突然倒れ、病院に運ばれたらしい。僕は家で待っていたが、結局その日、父が帰ってくることはなかった。僕はサンタクロースが来るのをずっと待っていた。そして、サンタクロースは来なかったのに、僕は大声で泣き喚いた。
父の墓前で僕は目を閉じ手を合わせた。
ゆっくり目を開く。するとポケットの中の携帯電話が振動した。
電話に出る。
「あなた、衣装はもう買ったの?」
「これから買いに行くところだよ。かずきはどうしてる?」
「元気にしてる。パパの帰りを待ってるわよ」
「あぁ、なるべく早めに帰るよ」
僕は電話を切った。
サンタクロースの服か、どこで売ってるんだろうな。
僕は父に別れを言い、墓地を後にした。
瞬間、雪が降り出した。
十二月の、それも昼間に降るなんて。
電柱にとまっていたカラスが、一度だけ大きく鳴き、上空高くへと飛んで行った。
オニオンプランター