バナナはすごい (エンツォ)
すごいんだよ、バナナって奴はさ。
OH!
BANANA
IS
GREAT!
バナナ、朝食の雄、腰の焔。わが御三時、栄養。
バ・ナー・ナ――唇を軽微に弾き、口蓋のもと舌先二歩、二歩目に、歯へ。
バ。ナー。ナ。
群れて実りぶら下がる0.5フィート余り、それはバ、酸っぱくバ。皮を捲りナナ。
学名Musa spp.漢字で実芭蕉。だが私の手の中、それはいつもバナナだった。
バナナはすごい。
不眠解消にいい。
疲労回復にいい。
エネルギー源にすぐれている。
とにかく体にいいことがいっぱい。
いいところをあげればキリがない。
それがバナナ。
アダムとイヴが食べた禁断の果実も本当は林檎ではなく、バナナだったという説がある。
嘘じゃない。
バナナに関してわたしは嘘をつかない。
嘘はバナナへの裏切りだからだ。
裏切られて哀しむバナナをわたしは見たくない。
バナナはとにかくすごいんだ。
ここでバナナンジョークを一つ。
ジョージは息子のボブがちっとも勉強しないのでこう言った。
「いいかいボブ、お前は大学に行きたいんだろ?
だったら勉強しないとだめじゃないか」
するとボブは「それは大変だ!」と言って大急ぎで自分の部屋に入っていった。
しばらくしてジョージがボブの部屋を覗くと、ボブは一生懸命勉強していた。
次の日、ボブは学校から帰るなりすごく不機嫌そうに部屋に閉じこもってしまった。
ジョージは心配して息子に尋ねると、こう答えた。
「一生懸命勉強したのにテストに集中できなかったんだ」
「ハハーン」とジョージは続けてこう言った。
「いいかいボブ、テストの前の日は勉強も大事だが
しっかりバナナをとることはもっと大事なんだよ!」
ってね。
Oh!
It’s
Bananan
Joke!
バナナはすごい。
バナナは色を変える。
色によって栄養素も変わる。
青めのバナナは便秘解消。
黄色は美肌効果。
茶色くなったら免疫力がアップするんだ。
用途によって欲しい効果があらわれる。
それは人が社会において、相手に合わせてその顔を変えるのに近い。
バナナはまるで人のよう。
バナナってすげぇや。
バナナはすごい。
なんと、バナナを食べてバストアップしたなんて報告もある。
バナナを習慣的に食べることでホルモンバランスが改善されると、奇跡だって起こせるんだ。
その女性はCカップからFカップに二階級昇進したらしい。
まったく、バナナは男性を惑わす小悪魔みたいな奴だ。
え? 「俺は胸は小さい方がキュートだと思う」って?
ははっ見ろよ!こんなところにイチゴ信者がいるぜ!
Fuck!!!!!!!
Strawberryfucker!!!
Fuck!!!!!!!
秋の暮れ方 まぶたを閉じて
あたたかいバナナの匂いをかげば
わたしはそこに幸福な密林の広がるのを見る
物憂げな太陽のきらめく密林を
自然はこの怠惰な島に
奇妙な木と香ばしい果実を与えた
しなやかで力強い男たち
率直な目をした女たちをも
バナナの匂いが誘い出したこの島には
帆船であふれる港がある
波にたゆたうけだるき船たち
タマリンドのようなバナナの匂いが
大気を満たし 鼻をつき
農夫たちの歌声と溶け合うのだ
バナナはすごい。
バナナはおやつに入るのか、否か。未だにその議論は止まない。
わたしはどちらでもいい、と思っている。
議論に対し、飄逸であろうとしているわけではない。
ただ、わたしはこの論争に決着をつけるのは時期尚早であり、決断はまだ遠い未来で良いと思っているのだ。
なぜか。
この議論がなされる限り、学級会においてバナナが主役でいられるからだ。
インドではバナナを完全におかずとして扱う。
つまり、インドではこの議論が起きない。
それは悲しいことだとバナナは言う。
わたしもそう思う。
バナナはすごい。
バナナはまるで人間のために存在するような果物。
皮は剥きやすい。
持ちやすいので食べやすい。
坂で地面に落としても、絶妙に屈折しているおかげで転がらない。
バナナはわたしたちに尽くしている。
こういった考えは傲慢だろうか。
でもきっとバナナは許してくれる。
バナナは寛容な奴だからね。
そうだ。認めよう。
だからといってわたしを嫌いになってもバナナまで嫌いにならないで欲しい。
バナナに罪はないのだから。
いや、しかし待てよ。
バナナに全く罪がないと、言えるのか?
断言できるのかわたしは!?
わたしは都合良くバナナの良い面ばかりを見て、
無意識にバナナの悪から目を逸らしてきたのではないか?!
もう、わたしがバナナについて語れることはない。
「あれ? バナナのいいとこってそれだけ?」と思っている人がいるかもしれない。
もっともだよ。わたしもその一人だ。
バナナの偉大さを思えば、もっと多様で万能な効能をあなたたちが夢見ててもなんらおかしくはない。
だけれど、わたしにだってバナナに満足する部分もあれば、不満なところもある。
バナナには言わないけれど。勿論。
でもさ、そういう複雑さを一つの果物に求めるのは土台無理な話じゃないか?
それを願うなら、それぞれの効果に対応した果物を見つければいいじゃん!
そうだろう?
音楽に例えようか。
ユーロビートが好きな奴がいれば、ロックが好きな奴がいるよ。
それで幸せならそれでいいじゃん。
ユーロビートが好きな奴にロックの話をわかって貰おうとする?
無意味だよ、そんなの!
ああ、だからね、バナナがすごい果物だからといってね、それが本当なんだよ。
何から何までに効果がある果物なんてあるはずないんだから。
わたしは、バナナに執着している。
こんな芝居じみた無様なバナナについての演説も、
結局はバナナを恐れているからなんだ。
わたしはバナナとともに自己像を破壊して、
わたし自身の悲しみから逃れようとしている。
しかし、その感情はこんな馬鹿な道化じみた遊びで慰められるように出来ているのだろうか?
こんな、何にも満たない解説をして、涙を浮かべて、
心静かにバナナのことを思うのが、美しい人間というわけか!
清らかだ! ……ああ、いかにも浄らか!……
バナナはすごい。
そう、バナナはすごい。
バナナは教えてくれた。
わたしは帰りにコンビニで買ったバナナをホテルの自室で一房食べきると、
皮から〈Dole〉のシールを剥がし、右手の甲に貼り付けた。
わたしの両目の縁にはうっすら涙が滲んでいる。
そっと目を閉ざすと、呻くようなバナナの鳴き声がわたしの耳に届いた。
それは哀しみなのか、怒りなのか。
喜びであってくれよ、と願いながら、
わたしはトランクから拳銃を取り出し
右のこめかみを撃ち抜いた。
(文・絵、エンツォ)
金曜の夜の自虐